はじまりの死。

ヒーローソードはその相手を初めから警戒していた。
それは彼の長年の修練が生み出した霊感であったかもしれないし、漠然とした予感であったかもしれない。しかしその重圧は確かに彼の張り詰めた弦のような神経を硬く引き絞っていたし、緊張の弦はその脅威を眼前にした際によりいっそうの力を込めて引き絞られたのである。
ヒーローソードの脳裏にフラッシュバックした、記憶にない敗北の風景は彼の警戒心を細大にまで拡大させ、そしてもはや限界まで引き伸ばされた弦には敵意という名の矢がつがえられていた。

対峙した屠殺彦を前にして、ヒーローソードは万全の策と必殺の魔術で相対することを決定した。
圧倒的な巨躯とすさまじい威圧感が、彼に慎重さを与えた。



ここではないどこか。いまではなにいつか。
このさきにも、これよりまえにもなかった、ありえない何か。
どこかに、ひとつの屈辱があった。
英雄になるという少年の誓い。それはやがて夢となり目標となり、青年の生き方になっていった。
夢への道を順調に駆け上がって言った彼の前に立ち塞がったのは余りにも強大な壁だった。
その悪夢は彼の未来を断ち切り、英雄の芽は理不尽に潰されてしまった。


ヒーローソードはゆっくりと剣を振り上げ、必殺の魔法剣を解き放つ。
悪夢は此処にはない。ここに存在するのはひとりの英雄だった。「かもしれなかった」という不吉な可能性は、しかし彼の願いの強さの前に打ち払われたのだ。
閃光が空を駆け抜け、屠殺彦は反応する事すら叶わず、一撃の下に葬られた。





















・・・・・・既に屠殺彦に頭部の半ばまで吸われてしまったヒーローソードは朦朧とした意識の中で、そんな幸せな白昼夢を見ていた。


…18/19

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