黄泉帰り

まくろ=こすもす=りーんが目を覚ますと、そこは霧に包まれ、空から紫色の光がうっすらと差す奇妙な世界にいた。
自分は死んだはずだと、彼女は冷静に思考していた。自分は戦闘時の昂揚によるミス、致命的な失態を晒し、背後から攻撃を受けて死んだ。それが現実。
だがいま、ここに心があり、意識があり、自分があると認識できている。
それは果たして何ゆえか?
一体、見渡す限り紫の光りに照らされた霧ばかりのこの何処とも知れない空間に、その答えを知っているものがいるのだろうか。

勢い良く手が挙がった。
それも一つではない、二つ、三つ、四つ、五つ、否一桁では収まらない、十、二十、三十、あるいは百を越えて余りある。
視界の続く限りの腕、腕、腕!
まるでそれは挙手の林、おぞましさすら感じられるその光景の中、不思議とまくろは冷静で居られた。
彼女は自信の冷静な思考の奥で、ありえない結論を出し始めていた。
ここでは、現世の理は通用しない。
自分は死んでいる。それは確実だ。ならば、今自分がいるのはどこか?
本来、凡人達の常識的な発想で行き着く「場所」と、まくろの鋼鉄の論理に裏付けられた結論が示す「場所」は全く逆の方向に位置している。
だがしかし・・・・・・今回ばかりは、両者の見解は一致せざるを得ない、つまりまくろの論理的思考をもってしても、唯一の解答がそこでしかありえないと告げているのである。

ここは、地獄である。

「然り」

口が、虚空に出現した。
それだけではない。林立する腕の狭間、空間に縦の亀裂が入ったかと思うと、その中から眼球がぎょろりと覗く。青く、黒く、暗く。
不気味な色を湛えるその瞳に、たまらなく不吉な感触を抱いたまくろは一歩後ずさり、その無意味さを理解してやめた。
上下も、前後も、左右も。
まくろの全方位を、「それ」が取り囲んでいた。

「誰?」
誰何の声が震えていなかったかと余計な気がかりを残しつつ、口を開く。口元が小刻みに震え、舌をかんでしまいそうだった。
すると口はふわりと高く浮き上がり、にやりと両端を吊り上げるとある一音を形作った。

「ヌ」
続けて口はこういった。
おまえをよみがえらせてやろう、と。












そして、すべてが逆転した。
血が、肉が、欠片が、傷が、瞬く間に、時間が早回しに逆転しているかのように。
組み上げられる木像のようにすみやかに完全に以前の姿を取り戻していく。

「ば、馬鹿なっ!」
驚愕の声が上がる。当然といえよう。
撃鉄の猛攻撃によって完膚なきまでに死んでいたはず、勝利したはずの、

猫剣が全くの元通りになって再生したのだから!


「ふぅぅぅぅぅ・・・・やれやれ、だにゃぁ・・・・」



ねこ☆ぱんち♪そぉどは冷ややかな声で、そうとだけ鳴いて魅せた。

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