レストロオセ神について-1


レストロオセ神とは、古代ジャッフハリムに君臨した偉大なる女王が死後神格化されたものであり、ジャッフハリム時代から数千年が過ぎ去った今もなお多数の崇拝者を有する偉大なる神です。
生前の治世は苛烈にして頑健な規律を掲げながら、民を第一に尊重する善政であったと伝えられ、「生命の流転」を意味する彼女の名前は後に転じて「適切な裁量の/善政のLesstro;thick」という形容詞として用いられるようにまでなりました。

彼女は当時の人民から圧倒的な支持を集めていました。人々があまりに彼女を慕い、崇拝するので、母なるレストロオセは自分の死後彼らがどうなってしまうのか不安になりました。
そのため彼女は故意に悪政を敷いて支持率を下げようとしたり、悪い噂をばら撒いてみたりもしました。

しかし今度はその悪政を喜ぶ人々が現れたり、悪い噂を聞いて逆に親近感を覚えてしまう人出てきたりと、なかなか思い通りには行きません。

そこで彼女は自分の死後も人々が支えを失わないように、死後自分を崇めさせる事で心の拠り所にしようと考えました。
この考えに、人々はこぞって賛同の意を示しました。なにしろ生きている時でさえ半分は神様扱いだったので、偉大なる女王への忠誠が信仰に変わったとて困る者などいなかったのです。


だがしかし、女王レストロオセがいかに善政を敷き厳格な法で統治を進めても、人の世には常に反目や争いの種が尽きぬもの。
主義主張、利権利害が絡み合えば自ずと諍いは生じてくる。
そうした混乱の火種を、われらが偉大なる母君は恐ろしくも凄絶な処罰制裁で戒めてきました。
絶えぬ悪の芽、小さな恐怖を、更なる暴虐と悪を見せ付けることによって抑止してきたのです。

そのため、彼女に対する崇拝には畏怖や保身といった、とても動物的な感情も含まれていました。
その彼女がいなくなった時、押さえつけられていた動物的暴力性は箍を外します。
なにしろ、大いなるレストロオセほどに苛烈な善政を成し得る後継者はついぞ現れなかったからです。

世は混乱に見舞われるかと思われましょう。
ですがレストロオセはそれすら見越しておりました。
我らが女王は、多様にして善悪入り混じる己が崇拝者達を四十四の宗派に分かちました。

それぞれの宗派はそれぞれ教義や戒律、理念を異としていました。ただ一つ、大いなるレストロオセを神として掲げるというそれ以外は。

宗派はそれぞれが異なる職分、役割を持ち、また異なる職能者たちが結束するための性質や、同じ気質の者たちが席を同じくするための理念を備えていました。

人民の性質を極めて細密に分析していた女王は、一本の細い律法で人々を縛ることをせず、人々の性質に見合ったやり方でその死後も人々を束ねたのです。
うまい具合に住み分けがなされ、本来なら宗教に付き物の勢力争いや解釈の偏向、異端の認定も、
はじめから正統とされる宗派が四十四に分けられ、なおかつそれが多種多様な教義を持って存在しているものですから、ほとんど起きることがありませんでした。

たまに起こる争いも、争いを諌め調停する役割の宗派が間に入って治め、その宗派が堕落し腐敗すれば別の宗派がそれを正すといったふうに、上手い具合に全ての宗派が保管し合い、さながら一つの生き物のように機能するのです。

私のようなゾムドレの者もその一つ。
もちろん、母なるレストロオセという唯一にして絶対の繋がりを持つ他宗派とも良好な関係を築いています。