襲撃


まくろ=こすもす=りーんは、その身を濃霧の中に隠して密やかにその機会を窺っていた。
屠殺彦とフィアマの邂逅時点で、まくろは既に両者が激突した結果生き残るのは高確率で屠殺彦であろうことを予測していた。
全参加者の能力、戦術、性格などを加味した上で吟味、まくろにとって相性のいい敵、悪い敵をピックアップし、事前にどのように立ち回り、どの敵とどのような順番で戦うのが最適手なのか。
まくろの入念な計算によれば、最初に組するべき相手は屠殺彦だった。
屠殺彦という恐るべき難敵に対するために、まくろはあらゆる攻撃の威力を減衰させる霧の防壁を三重に纏い、万全の防備を整えて物陰に隠れた。
この迷路のような星見の塔の内部には至る所に由来の知れぬオブジェクトが存在し、隠れ場所には事欠かないのである。
偵察行為や様子見には最適であると同時、自分がどこから見られているかわからないということでもあるのだが、ことまくろに関してその心配は一切無い。
彼女独自の技術である霧の防壁三重奏は鉄壁にして不可視の遁行術である。彼女の存在は未だに誰一人として知らないはずであった。

まくろは静かに、フィアマが屠殺彦に吸われるのを待ち続けていた。
ところがどうだろう。両者は戦うどころか、むしろフィアマのほうが浮き足立って何事かを叫んでいる。
まくろはイライラし始めた。さっさと戦え。段取りが悪いのが一番嫌いだ。
まくろは飛び出して防壁を解除し、炸撃の呪文を唱えていた。
とても短気だった。

だが、この時点で冷静さを失っていた彼女は、物陰で屠殺彦とフィアマを監視していた自分を、さらに監視している人物の存在に気付いていなかった。
否、その存在は予想できていたし、その対策としての霧の防壁であったのだが、防備を解いてしまってはまるで意味は無かった。

まくろの両腕から燃え盛る炎が解き放たれようとする直前、予想だにしない方向からの斬撃が彼女を切り裂いた。
背後からの衝撃に前のめりに倒れ臥す。緩慢になっていく視界の情景の中、驚愕にひきつった顔でこちらを見つめる二つの視線がある。完全な予想外の事態に驚きたいのは、しかしむしろまくろのほうだというのに。
まくろの頭蓋を、再度衝撃が貫いて、まくろの意識はそこで断絶した。
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