血の雨

遡る事、数分前。
巨大なる怪異、リジェネレイト・スライムの包囲攻撃によって長期戦を強いられる事になった進撃のメテオラは、絶え間ない頭痛に苛まされていた。
前進と殴打以外の一切の行動が出来ず、また考える事のできない不滅の骸骨メテオラは、殴っても殴っても道を空ける事のない不定形で灰色の壁がなんなのかを考えようとはしなかった。
殴りつけるたびにぶよぶよと震えるそれが、徐々に弱ってきているのを感じていたからだ。
だがしかし、己の拳が半透明のそれにぶち当たる度に、なにか言い知れぬ悪寒が背筋を走るのを、確かに感じてもいたのである。

リジェネレイト・スライムは再生し続ける無尽の肉体で一定空間を包囲することによって、その空間内部に脱出不可能という恐怖と絶望を植え付ける能力を持っていた。
その生態の副次作用とでもいうべきそのおそるべき能力は、メテオラに思わぬ効果を齎していた。

進撃するという純粋な意思のみで己の全てを成り立たせている巨人は、先に進めないという絶望を突きつけられたことによってその肉体の変質をも促していた。
メテオラの心身は絶望に徐々に徐々に汚染されていった。
そうして、リジェネレイト・スライムの戦略意図の通りにメテオラは敗北する、筈だった。
メテオラは停止し、朽ち果てリジェネレイト・スライムの中に取り込まれる・・・・・・その予定が。

・・・・・・豪!!


咆哮が天を覆うセピアの膜を引き裂いた。
リジェネレイト・スライムは自分の内側にある存在が、今このときをもって圧倒的な存在感を放つ、先ほどまでとは全く異質なモノに変化してしまった事に気付いた。
黒々とした体躯、ところどころの身体の各部が尖り今までの骸骨のシルエットとはかけ離れた姿になっていく。
ぎらりと煌く眼光が真っ直ぐに直上を貫く。見られている、という恐怖がその巨大な体積を駆け巡るよりも速く、メテオラの口から、赤い閃光が解き放たれる。
リジェネレイト・スライムは音も無く爆ぜた。
血の雨が降り、分散させて隠しておいた臓器が落下していく。

http://d.hatena.ne.jp/rakujitu/20080511/1210502866

そしてリジェネレイト・スライムは絶命し、決定的な異変が開始されたのである。