激進

ナーナー
ナーナー。

悲鳴のようなものを上げつつ炎上する、一面のナーナー畑。
ナーナーの群生地である星見の塔の庭部で、沼女は火炎を撒き散らしながら周囲を警戒し続けていた。
本戦に備えて、予選時に打倒したナーナーを捕獲、栽培していた沼女は、早々にその利用方法を思いついていた。
即ち、煙によるあぶり出しである。
星見の塔バトルロワイヤル、なにも塔の中で決着をつけなければならないなどと誰も言っていない。広大な塔の中、たった18の敵を見つけるなど至難の業だ。
ならばむしろ煙を炊いて炙りだして、相手からこちらに出向いてもらおう。
幸いナーナーは燃やすと目にしみる有毒な気体を発生させる植物だ。
断末魔の叫びがやや耳に慣れないが、あまり気にする事はない。ナーナーはまた生える。
手に持った火炎放射器で容赦なくあたり一面を焼け野原にする沼女はその火力にほくそ笑む。
この火炎放射器テュプという男に勝利して入手した一品だが、中々の火勢である。ころしてでもうばいとった甲斐があったというものだ。


濛々と立ち込める黒煙の中に、人影のようなものが一瞬ちらと見えた。見ればその人影は苦しそうに背中を丸め、ごほごほと咳き込んでいる。
がしりと手を握り締めてその様子を見守る沼女、だが期待に反して一瞬だけ見えた影はよろめきながら塔の中に再び消えてしまう。
どうする、と沼女は自問した。
このまま外に脱出してくるのを待ち構えるのもいいが、それで相手を逃がしては意味が無い。
ここはすこし深追いしてでも、不意を撃って相手を倒すべきでは?

沼女は短い時間で決断した。重い火炎放射器は捨て置き、ナイフを手に煙の中へ突っ込む。
果たして、沼女の前には格好の獲物が横たわっていた。
蹲る影は隙だらけもいいところ。
相手の間抜けをあざ笑いつつナイフを振り下ろそうとする沼女は、しかし真横から猛烈な勢いで突進してくる漆黒の影に気付かないまま、その生涯を終えることになる。
進撃するメテオラの鉄拳は一撃で沼女の矮躯を吹き飛ばし、続く口腔からの爆熱する光線が彼女の肉体を跡形も無く吹き飛ばした。

沼女は最後の瞬間、蹲る影の背に嘲笑の色を浮かべる無数の瞳を見たような気がしたが、それを疑問に思う事も無くその意識は断絶した。

・・・14/19








そして。
漆黒の色に染まったメテオラの向かう先には今まさに刃を交えんとするねこ☆ぱんち♪そぉどとザリスが相対しており、庭の水場に休憩に向かった撃鉄が沼女が敗れたその地点を訪れようとしていることなど、今この時点で知る者がいようはずもなかった。