ゆらゆらと揺れる泉の彼方

ヒーローソード=屠殺彦は静かに歩みつつ、妙な事になったと煩悶を続けていた。
背後には、今にも切りかからんばかりに敵意を漲らせてこちらを睨みつけるかつての好敵手デスキャベツと、そのデスキャベツを嫌悪の目で見つめつつ牽制し、屠殺彦に明らかな好意の視線を寄せるフィアマ。
そうした彼女を見やるデスキャベツは一瞬痛々しげに顔を歪めると、忌々しげに目を逸らす。
三人の関係は、一時的な均衡を保っていた。

ヒーローソード=屠殺彦は適当に吸いたい吸いたいと呻きつつ、無目的に歩む。
それを見たフィアマがどのような根拠でか素敵ーなどと黄色い悲鳴を上げ、デスキャベツが間違ってるやらだまされてるやら嘆きの悲鳴を上げ、フィアマの怒りに満ちた視線で一蹴される。
一度フィアマがデスキャベツを攻撃しようとした事さえあったが、ヒーローソード=屠殺彦がウィンクすることであわやというところで交戦を回避できた。その後しばらくフィアマが屠殺彦様LOVEを連呼し続けたため三者の溝はよりいっそう深まるという弊害が発生したが。


どうしたものか、と内心で嘆息するも、状況は覆しようがない。
ふと思いついて、不自然に思われる事を覚悟の上でそれでもヒーローソード=屠殺彦は言った。

「フィアマ。 もし仮に・・・仮にだが、この屠殺彦が実は屠殺彦でないとしたらどうする?」
問いに、フィアマは何を言っているのかわからないのか首をかしげて答えを躊躇い、
デスキャベツも同様に疑惑のまなざしを屠殺彦に向ける。


その時だった。

一行が差し掛かった泉、その遥か向こう側に何かが光る。最初にその奇妙な赤い点を見つけたのはフィアマだった。
「あれは、何?」
熱。
巨大な熱。 それこそは、彼らが直面する最大にして最悪の危機である。
高速で飛行するそれが向かう先は、まさしく三人が居る場所であった。